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4 体温のおはなし(1)血液・免疫(8)

他にも「血球多すぎ!」にはいろいろなものがあります。

「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言うように、

「多すぎ」はれっきとした問題点です。

 

例えば赤血球が多すぎる「真正多血症(PV)」で起こることは、

皮膚粘膜紅潮、赤ら顔、めまい…だけではありません。

視覚障害を伴う中枢神経異常が出てきます。

しかも血球が多すぎて血液の粘調度が上がり、

血がめぐりにくくなります。

心臓はそれでも頑張って血液を押し出そうとしますから、

血圧が上がりますね。

…はい、循環障害のスタートです。

 

今まで勉強してきたみなさんは、

頑張りすぎた心臓が虚血に陥りそうなところまで

イメージできたと思います。

個別の病名が出てくる機会は少ないと思いますが、

「血球多すぎもつらいよね!」の意識は持っておいてください。

 

ここまでで、白血球の数と働きについて確認してきました。

じゃあ、それらが正常であれば問題はないのか。

…残念ながら、そうとも言えません。

それが次のブロック「過敏症」と「自己免疫疾患」です。

 

・おまけ:免疫不全症候群

少し細かく後天性免疫不全症候群を補足しておきます。

スタートはHIVが体内に入り、

マクロファージに貪食されること。

マクロファージ内で生き残ったHIVは

T細胞への抗原提示によってT細胞に侵入します。

HIVに感染したT細胞は、B細胞に抗原産生命令を出せません。

B細胞(Bリンパ球)に抗原産生命令を出せるのは

T細胞(Th2)のみ。

B細胞が抗体を作らなくなった結果、

侵入者を取り押さえる仕組みも印付けする仕組みもありません。

現場は負担莫大…やがて侵入者の猛攻になすすべもなくなります。

これが免疫不全状態です。

こうなってしまうと、その辺にいるカビですら、

死に至る感染症の原因に。

ニューシモチス肺炎(カリニ肺炎)が代表ですね。

以前は治療方法のない「死の病」でしたが、

現在ではAIDSを発症させずに無症候期をコントロールする

「コントロール可能な病気」です。

感染経路は血液、性行為、母子の垂直感染。

一時期問題になりましたが、

加熱によるウイルス不活性化の必要性と

重要性が周知された現在では、

「薬剤性(AIDS)」は出ないはずです。

 

ちなみに、後天性免疫不全は他の病気からも、

薬からも起こりえますよ。

抗がん剤のように細胞分裂を邪魔したせいで

血球が働かなくなったものもあれば、

免疫抑制剤のように

最初から免疫を抑制する目的で使うものもあります。

免疫抑制は、移植のときに必要ですね。

他の病気によるものの例としては、

重度感染症やがん、播種性血管内凝固症候群、

腎不全、全身性エリテマトーデスなど。

もちろんこれらのときには各種感染には要注意ですよ!

 

「後天性」がある以上、先天性もあります。

免疫不全になる理由にはいろいろあります。

「抗体産生できない」、「食細胞が足りない・働かない」、

「複合的にダメダメ」等々。

しかも生後6か月ごろまでは、

母子免疫のおかげで気付かれないこともしばしば。

胎盤経由のIg-G、母乳経由のIg-Aが切れたころに、

赤ちゃんの体が大ピンチになります。

正常な造血幹細胞の移植、

抗体(免疫グロブリン)や

白血球の情報伝達物質サイトカインの補充療法、

感染症対策の薬物療法等がとられます。

 

「ADA欠損症」では、

ほぼ唯一の遺伝子治療が行われることもありますよ。

 

注意しなくてはいけないことは、予防接種。

生ワクチン(BCG、ポリオ)は、

活性(感染力)のあるウイルスを体内に入れるもの。

免疫が不十分な状態でこれらのウイルスが入ってきたら、

即発症です。

家族や学校等の理解が生命線になってきますよ!