8 下部消化器系・生殖器系のおはなし(2)大腸(7)
「下痢の自浄作用」に関係して、
下痢と便秘について補足しますね。
下痢は便中の水分量が増加したもの。
増加するにつれて、
軟便、泥状便、水様便と変化します。
3週間以上続くものを慢性、
そうでないものを急性と呼んでいます。
一応、原因は「滲出性」「分泌性」「浸透圧性」
「腸管運動異常性」に分けられます。
滲出性というのは、
炎症等により腸管壁の透過性が亢進してしまったもの。
急性の代表が腸管感染症。
慢性の代表は、
クローン病、潰瘍性大腸炎、腸結核ですね。
分泌性は「何かが分泌過剰の状態」にあるもの。
急性の例は、コレラ、出血性大腸菌等の毒素性感染症。
慢性の例は腫瘍の1つ、カルチノイド症候群です。
浸透圧性は腸管内に浸透圧の高いものが来たので、
周囲から水をかき集めてしまったもの。
急性の例はソルビトール等の下剤。
慢性の例は乳糖不耐や膵臓機能不全です。
腸管運動異常性は、主に慢性の下痢の原因。
運動亢進のせいで水分吸収不十分なのに先に進んでしまう例が、
甲状腺機能亢進症や過敏性腸症候群。
運動が低下して水分を吸収することができない例が、
糖尿病やアミロイドーシス、強皮症などです。
腸管内に病原性のものがいるとき、
体はそれらをできるだけ早く外に追い出そうとします。
「水分吸収は不十分でもいいから、とにかく出せー!」
その結果、下痢になりますね。
特に「そこにあるだけで周りに悪さをする」毒素等があったら、
体外排出が最優先になります。
例えば、ボツリヌス菌の毒素は神経毒。
目に働くと視力低下や複視。
嚥下障害や構音障害
(ろれつが回らない状態)さえも引き起こします。
こんなものは一刻も早く押し出してしまうに限ります。
また、ノロウイルスは
小腸の吸収担当の上皮細胞をボロボロにしてしまいます。
放置したら、
体の中に栄養を入れても吸収できない大ピンチに!
こちらも、即追い出し対象です。
だから、辛い下痢の出る感染症ほど、
「下痢止めはできるだけ使わずに、
原因を体外に出しきってしまう」必要があるのです。
これが「下痢の自浄作用」の正体。
最初から強い止痢薬を使わない理由です。
反対に便が出にくくなるものが便秘。
正常なら食事から8~9時間で
「食べ物だったもの」は結腸に到着。
約85%の水分は主に上行結腸で吸収され、
72時間以内に体外に排出されることになります。
体外排出(排便)には、
胃-結腸反射による大腸の蠕動が必要。
蠕動で便は直腸に移動し、
そこに排便反射(直腸の蠕動と肛門括約筋の弛緩)と
腹圧がかかることで、便を体の外に押し出します。
便秘とは、3日(~4日)以上有効排便のないもの。
便の停滞感や腹部膨満感を伴うことが多いですね。
女性は腹圧をかける腹筋が弱いことに加えて、
蠕動と刺激感受性を抑制する
黄体ホルモン作用があるせいで便秘がちですね。
原因は、炎症や閉塞等による「器質性」、薬剤等による「医療性」、
それ以外の「機能性」に分けられます。
機能性の中には、
ストレス等による急性(一過性)単純性便秘もありますが、
多くは慢性便秘。
慢性の中は、糖尿病等の基礎疾患による
「症候性」、
大腸がけいれんを起こして便が進んでくれない
「けいれん性」、
大腸に力が入らないせいで便が進んでくれない
「弛緩性」、
便意を我慢しているうちに
便意として感じる直腸圧が上がってしまった
「直腸性」などがあります。
器質性、医原性は原因が分かっているので
対策もある種簡単。
機能性でも、基礎疾患のある「症候性」なら、
基礎疾患の治療が便秘治療です。