10 各論5:体温(感染・免疫):⑦消炎鎮痛剤(3)
サリチル酸中毒は、
耳鳴りやめまい、嘔吐から始まります。
そのまま放っておくと、
呼吸性アルカローシスと
代謝性アシドーシスが同時に起こり、
高熱、錯乱や傾眠といった精神症状、
多臓器不全さえも引き起こす怖い中毒です。
きっかけになるのは、
アセチルサリチル酸の呼吸中枢刺激。
必要以上に二酸化炭素を吐き出すと、
呼吸性アルカローシス一直線です。
これでは血液pHの恒常性が崩れ、
体の細胞は正常な反応ができなくなります。
高熱や精神症状は、血液pHが正常域から外れたことで
中枢神経系がうまく働かない状態
(中枢神経系不全)によるものです。
このままでは多臓器不全(MOF)を起こして、
生命の大ピンチ!
そこで腎臓が血液pHを正常域に戻すべく、
原尿から重炭酸イオン(HCO₃⁻)の再吸収を減らし
血液中の水素イオン(H⁺)を分泌しないようにします。
これだけを見れば、
血液pHが腎臓のせいで酸性に傾きましたから
代謝性アシドーシスですね。
これは呼吸性アルカローシスを
是正しようとして起こったものなので
「代謝性としての代謝性アシドーシス」になります。
痛み止め1つで、大変なことになってしまいましたね。
添付文書に「以下の人は医師と相談」、
「1日3回まで、4時間以上間をあけて」とあるのは、
このような重大副作用を防ぐためだと思ってくださいね。
なお、
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)共通の副作用として、
「腎機能の障害」があります。
プロスタグランジンは
白血球を炎症部位に到達させやすくするために
血管を広げる働きがありました。
8 脂質代謝のおはなし(5)
脂質代謝はATPを作って終わり、ではありません。 脂質から他のものができることも、 立派な代謝(同化 ...
https://5948chiri.com/bioc-8-5/
腎臓でプロスタグランジンが作られないと、
腎臓に流れ込む血液量が減る可能性があります。
腎血流量が減るということは、
尿が作られにくくなるということ。
循環血液量が減ってしまったり、
腎臓機能がもともと不調だったりすると、
急性腎不全が起きてしまうかもしれません。
サリチル酸中毒ほどの怖さはありません、が。
腎臓の働きを思い出せば、
痛み止めの使い過ぎはやっぱり「危険!」なのですよ。
アセチルサリチル酸1つで、
ずいぶん長くなってしまいました。
だけどもう1つ。
「ピリン系」薬剤について補足が必要です。
「ピリン系」というのは、
「ピラゾロン」と呼ばれる(消炎鎮痛剤の)一群の薬のこと。
名前の中に「ピリン」が入っていても、
アセチルサリチル酸(アスピリン)は
「ピラゾロン」ではないので、
「ピリン系」ではありません。
ピリン系の薬は発疹(ピリン疹)を起こし、
薬疹の代表格でした。
そのため「ピリン系」は近年はあまり使われません。
現在の消炎鎮痛剤の多くは、「非ピリン系」ですよ。
次回はアセチルサリチル酸以外の
非ステロイド系消炎鎮痛剤のおはなしに入りましょう。
【今回の内容が関係するところ】(以下20230503更新)