12 各論7:呼吸(中枢・精神):③麻酔薬(2)
「硬膜外麻酔以外」の慎重投与は理解できましたね。
硬膜外麻酔での慎重投与対象は以下の人が追加されます。
血圧低下の可能性があるので、心血管系に著しい障害のある人。
出血しやすく、血腫形成や脊髄障害の可能性があるので、
血液凝固障害や抗凝固薬投与中の人。
仰臥位性低血圧を起こしやすく、麻酔範囲が広がりやすいので、
腹部腫瘤や妊娠中の人。
症状悪化の可能性があるので、
髄膜炎・灰白脊髄炎、脊髄婁、脊髄・脊椎に腫瘍や結核のある人。
麻酔範囲が広がり予測困難になりうることと脊髄や神経板損傷の恐れがあるため、
脊柱に著明な変形のある人にも慎重に投与する必要があります。
…急に気を付ける対象が増えましたね。
「硬膜外麻酔」とは何かを確認してみましょう。
脊髄を覆う膜が硬膜。
脳のパッキング材(外側から硬膜、くも膜、軟膜)でも使われていた硬膜です。
この硬膜の外側にある空間(脊椎の脊柱管と硬膜の間)に麻酔薬を入れるのが、
硬膜外麻酔です。
あらかじめ硬膜外に細いチューブを固定しておいて、
手術後に痛みに応じた痛み止めを追加注入するときに使います。
特定の範囲(胸、腹、両足など)を限定して麻酔できる、便利な麻酔です。
さて「細いチューブ」を入れるためには、それより太い穴をあける必要があります。
そこでの出血が止まりにくいと…血腫等の危険につながります。
また麻酔範囲をコントロールできることが長所ですが、
背骨(脊柱)が通常と違う形をしていたら、
麻酔のとどまる場所が変わってしまう可能性がありますね。
脊椎や脊髄、またはその周辺に穴や炎症があるときには、
「穴をあける」行為自体で症状が悪化する可能性があるのです。
そして妊娠中の人(特に中期から後期)や腹部腫瘤のある人は、
硬膜外麻酔を特定の場所に効かせるために
仰臥位(あおむけ)になって手術台の上にいると、
仰臥位性低血圧症候群を起こしやすい状態です。
仰臥位性低血圧症候群とは、
仰臥位でいることで子宮や腫瘤によって下大静脈が圧迫されて、
心臓に戻る血液が減ったために低血圧を起こしてしまうもの。
頻脈、悪心、嘔吐、冷や汗や顔面蒼白から始まり、
ショック状態に陥ってしまうこともあり、目的とした手術どころではありません。
仰臥位性低血圧症候群を起こさないように姿勢を変えると、
今度は麻酔のとどまる場所が変わってしまう可能性があります。
そうでなくとも血圧急変(特に血圧低下)の可能性がある、
心血管系に著しい障害のある人に注意が必要なことは言うまでもありません。
…ここまで読めば、硬膜外麻酔のときに慎重投与対象が増える意味は分かるはず。
もう一度、落ち着いて読み直してみてください。
今度は「なるほどね!だからか!」と納得できると思いますよ。