8 各論3:体温(消化器系):口から十二指腸(2)食道・胃・十二指腸(1)
食道・胃・十二指腸に効くお薬のおはなし。
ここは「胃酸」がキーワードです。
ちょっと胃の働きを復習しておきましょう。
胃はタンパク質消化酵素のペプシンが出るところ。
そのままの形で分泌していては、
胃自身が消化されてしまいます。
だから酵素は前駆体の形で分泌。
胃酸で活性化されるようにしました。
そして胃粘膜が胃粘液を出して、
胃酸とペプシンから胃を守っています。
粘液のないところではアルカリ性の膵液で中和して、
ペプシンが元気なpH1~2から外れるようにする…
これが生体のとった対策です。
でもこの対策は結構微妙なバランスで成り立っています。
粘液がうまく出ないと、胃が消化されてしまいます。
胃酸が出すぎると、膵液の中和が不十分になって
ペプシンが十二指腸でも働いて
(十二指腸が)消化されてしまいます。
嘔吐等で胃酸とペプシンが食道に入ると、
食道まで消化されてしまいます。
その結果が「痛い!(消化管の潰瘍)」です。
胃の「痛い!」には
胃活動の過活動(けいれんなど)や
細菌・寄生虫等によるもの
(アニサキス、ピロリ菌等)もあります。
だけど、まずは胃酸とペプシンによる潰瘍を
理解していきましょう。
すごくシンプルな薬として、
胃酸の「酸」を中和させる薬(制酸剤)があります。
例えば、おかし作りで使う炭酸水素ナトリウム(重曹)。
これは水に溶けるとアルカリ性を示します。
酸と少しのアルカリを混ぜると、
酸が弱まりますね(pH7の中性に近くなる)。
酸が弱まれば、ペプシンの働く最適環境(pH1~2)から外れて
消化管が消化されにくくなります。
酸自体による消化管への刺激も弱くなりそうです。
でも、いくら「酸を弱める」といっても、
どんどん胃酸が出てきたのではたまりません。
胃酸そのものの分泌を減らす薬も必要です。
それがH2受容体阻害剤(H2ブロッカー)と、
プロトンポンプ阻害剤です。
どちらのお薬にも共通する
「胃酸の作り方」を簡単に説明しますね。
胃酸は、理科や化学実験でおなじみの塩酸(HCl)。
材料の1つの塩化物イオン(Cl⁻)は、
体液(例えば血液)中にいっぱいありますね。
材料のもう1つ、水素イオン(H⁺)は、
必要に応じてプロトンポンプから胃の中に放り込まれます。
「ポンプ」ですから、細胞膜にあるATPで動くタンパク質。
「プロトン」は水素イオンのことです。
ここを直接じゃまするのがプロトンポンプ阻害剤。
水素イオンが来ないと、胃酸はできませんからね。
「ヒスタミン」「ガストリン」「アセチルコリン」で
伝わる命令が来たときに、このポンプが動き出します。
これらの命令を受け取るところ(受容体)が、
H2受容体、ガストリン受容体、M1受容体です。
次回は具体的なお薬の名前と一緒に確認していきましょう。
【今回の内容が関係するところ】(以下20230109更新)