8 各論3:体温(消化器系):肝胆膵(3)膵炎
続いて、肝臓・胆嚢・膵臓に効く薬のおはなし。
消化酵素の宝庫、膵臓に効く薬からスタートです。
膵臓は糖の消化酵素アミラーゼ、
タンパク質の消化酵素トリプシン、脂質の消化酵素リパーゼの故郷。
膵臓の約95%が消化酵素を作るところです。
残りは、ホルモンを作るところ。
ランゲルハンス島でグルカゴン、インシュリン、ソマトスタチンを産生していますね。
そんな膵臓で炎症が起こると大変です。
これら消化酵素がコントロールなくあふれ出る可能性があります。
特に怖いのがタンパク質消化酵素のトリプシン。
胃でも、ペプシンから身を守るためにいろいろと工夫がされていましたね。
膵臓も前駆体分泌によって自分が消化されることを防いでいます。
でも、炎症を起こしてしまったときには
前駆体が活性化されてしまい、
「タンパク質消化モード、スイッチ、オン!」になってしまいます。
まさに「自分が消化されている(自家消化)」痛みが、膵炎の痛みです。
だから、この痛みを止めるために、抗酵素剤が使われます。
例えば、ナファモスタットメシル酸塩(フサン)は、
急性膵炎だけでなく播種性血管内凝固症候群(DIC)や
透析時にも使われるお薬です。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00048710
トリプシンのようなタンパク質分解酵素は、
血液の凝固系(止血:かさぶた作り)でも働くからですね。
薬そのものに対する過敏症の他に、禁忌指定はありません。
出血増悪の恐れがあることは、
重要な基本的注意の欄を確認するまでもなくイメージできますよね。
注意しておくことは、
「腎臓でナトリウム排泄促進とカリウム排泄抑制」という
アルドステロンを抑制されたような働きが出る可能性があります。
血中ミネラルに置き換えれば、
「高カリウム血症と低ナトリウム血症のおそれ」ですね。
高カリウム血症といえば…テント状T波と心停止の危険ですよ。
加えて、アナフィラキシーショック(又はそれに似た症状)が
出ることもあります。
そんなときにはすぐに薬を中止して、強心・昇圧のアドレナリンの出番です。
慢性化してしまった膵炎に使われるのが、
カモスタットメシル酸塩(フオイパン)。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00051191
こちらもタンパク質分解酵素を広く邪魔します。
禁忌ではないものの、重大な副作用の可能性に
高カリウム血症やアナフィラキシーショックが入ってくるのは
ナファモスタットメシル酸塩と同じですね。
この薬は慢性膵炎の他に、胃の手術後に起こる逆流性食道炎にも使われます。
でも「(普通の)逆流性食道炎」には効きませんよ。
普通の逆流性食道炎の原因はペプシン。
膵炎で問題になるトリプシンとは違いますからね。
消化酵素は食べ物が入ってくると分泌されますから、
(特に急性)膵炎では絶飲食になります。
あとは輸液で水分と電解質(必要に応じて糖質等も)のフォローですね。