4 薬に共通するおはなし(3):薬の働き(8)
催奇形性の盲点になりがちな、
抗生物質テトラサイクリンのおはなしです。
どこを邪魔するのかというと、
翻訳のときにアミノ酸がつながるところです。
翻訳はmRNAの情報を(アミノ酸を並べて)
タンパク質の1次構造にするところ。
リボソームの中で、tRNAが運んできたアミノ酸を、
mRNAの情報(暗号:コドン)通りにつなげていきます。
テトラサイクリンは、
アミノ酸を運んできたtRNAがmRNAと確認作業をするところ
(mRNAのコドンと
tRNAのアンチコドンを向かい合わせるところ)
を邪魔します。
確認作業ができないと、
そのtRNAが運んできたアミノ酸は使えません。
そしてすぐ隣に次のアミノ酸が来ないと、
「タンパク質の合成ができない」もしくは
「正しいタンパク質の1次構造ができない」ことになります。
タンパク質の1次構造変化は立体構造変化につながり、
タンパク質の機能変化につながっていきます。
生化学で勉強した「変性」や「失活」、
単一遺伝子疾患の
鎌状赤血球(貧血)症を思い出してくださいね。
テトラサイクリンはこのようにして
細菌がタンパク質を作るところを邪魔して、
細菌が増えないようにしています。
…でも、ヒトの細胞でも「翻訳」はされています。
しかも胎児期なんてまさに転写や翻訳のピークです。
翻訳を邪魔された結果、
できるはずのタンパク質ができない…その結果が奇形です。
増殖そのものよりも「働き(機能)」に問題が出やすいので、
妊娠中期以降が要注意になっています。
細菌に効くのはいいけど、
ヒトにも危険なんて嫌だなぁ…。
ごもっともです。
だから同じ細菌に効く薬でも、
もっと安全なものが作れないかと研究・改良が進みました。
「細菌にあってヒト(細胞)にないもの」や
「細菌とヒト(細胞)で使うけど、
ちょっとちがいのあるもの」に働く薬なら、
ヒトへの影響を小さくできそうです。
これが薬剤が対象を絞って効果を及ぼす
「選択毒性」というおはなしです。
この考え方は、
他の病原微生物(ウイルスや真菌等)にも使えます。
「ここの理解のために微生物学があったんだ!」
きっとそう気付けるはずです。
…でも、これ以上深入りすると
総論ではなくなってしまいます。
残りは、各論でおはなししますね。
次回はADMEの残りに戻りましょう。
代謝(M)と排泄(E)のおはなしです。
【今回の内容が関係するところ】(以下20221128更新)